## 先週(7月28日週)の動き:7月雇用統計のサプライズ 米ドル安転換からNY金は3,400ドル台回復、円高に上値を抑えられるも国内価格1万6000円台維持先週(7月28日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週足で反発となった。8月1日に発表された7月の米雇用統計は、雇用水準が低調だったうえ、過去のデータも大幅に下方修正され、市場にサプライズを与えた。7月以降、予想を上回る企業決算や堅調な米国経済を背景に上昇していた米ドルは急反落し、米国株も大幅に下落した。その結果、米国債に資金の一部が流入して価格が上昇し、指標となる10年債利回りは5週間ぶりの低水準に急落。このような状況の中、NY金は急伸した。前日7月31日にトランプ米大統領が69の貿易相手国・地域からの輸入品に10~41%の相互関税を課す大統領令に署名したことで、世界貿易を巡る懸念が改めて広がったことも、安全資産とされる金(ゴールド)に資金が流入する原因となった。8月1日のNY金は前日比51.20ドル高の3,399.80ドルで終了。その後も買いが続き、時間外取引もほぼ高値圏で推移し、3,416.00ドルで週末の取引を終えた。 NY金の週足は前週末比64.20ドル(1.9%)高の反発となった。レンジは3,300~3,416.90ドルで、値幅は116.90ドルとやや大きくなった。前回の当欄では想定レンジの下値を3,300ドルとし、下回ったとしても3,280ドル程度と読んでいた。### 関税協議の進展、利下げに慎重なFOMCで売り優勢先週(7月28日週)は前週末に米国とEUの通商協議がEUに対して15%の関税を課すことなどで合意し、通商摩擦激化への懸念が後退したことで、NY金は売りが優勢となっていた。一方、スウェーデンのストックホルムで開催されていた米中閣僚級協議が関税導入の停止期限を90日間延長する方針と伝えられたことも売り手掛かりとなり、NY金は3,300ドル近辺での取引となっていた。7月30日に声明文が発表されたFOMC(連邦公開市場委員会)は、予想取り政策金利の変更はなく、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の記者会見でも利下げに慎重なタカ派的な姿勢が示された。米労働市場が堅調さを維持する中で、関税のインフレへの影響を注視するスタンスが確認された。ただし、金利据え置きの採決に際し、2名の理事が反対票を投じたことが話題となった。しかし、いずれも事前に7月会合での利下げ支持を表明していたことから、市場への影響は限定的だった。市場はFRBの慎重な姿勢をすでに織り込んでおり、8月1日の雇用統計発表前には、債券先物市場は9月FOMCでの0.25%の利下げ確率を38%と見込んでいた。### クーグラー理事辞任のサプライズなお、8月1日午後の遅い時間帯にNY金が上値を伸ばしたのは、FRBがクーグラーFRB理事の8月8日付の退任を発表したことによる。クーグラー理事は7月29、30日のFOMCを欠席していた。理事の任期は2026年1月末までだった。辞任によりトランプ米大統領は後任の理事を前倒しで指名できることになる。利下げに積極的なトランプ米大統領の意に沿う人選になるとの見方から、米ドル売りが加速。10年債利回りはさらに低下し、NY金を押し上げた。### 7月米雇用統計、過去データ大幅修正のサプライズ米雇用統計では非農業部門雇用者(NFP)数の伸びが、この3ヶ月に月平均3万5000人増と、前年同期の12万3000人増から大きく減少したことが示された。7月のNFPは前月比7万3000人増と市場予想の11万人増を下回った。ポイントは5、6月の2ヶ月で計25万8000人が下方修正された点である。その結果、月平均3万5000人と大きく下方修正され、ここまでの市場の楽観的なシナリオは見直しを迫られることになった。失業率は4.1%から4.2%に上昇した。仕事探しを諦めたり離職した労働者(労働市場からの離脱)が約3万8000人にのぼり、労働参加率は6月の62.3%から62.2%へと3ヶ月連続で低下し、3年ぶりの低水準となった。それがなければ失業率は4.3%に達していたとみられる。### 国内金価格、円高で上値を抑えられるこうしたNY金の動きを映す形で国内金価格も週足では反発となった。ただし米雇用統計を受け米ドル/円相場が急反落(円急伸)したことが、上値を抑える要因となった。大阪取引所の金先物価格(JPX金)の8月1日の終値は1万6081円と前日までの1万5900円台から回復した。週足は、前週末比76円(0.47%)高の反発となった。レンジは1万5892~1万6138円で値幅は246円となった。8月1日の米ドル/円相場は雇用統計発表前に一時150.92円と、3月28日以来の高値(円安)をつけていた。しかし、雇用統計の結果を受け2%余り下げ一時147.30円まで下げ、147.41円で終了。4月10日以来の大幅下落となった。## 今週(8月4日週)の動き:米雇用統計で下値が固まったNY金 FRB人事を巡るトランプ米大統領の発言に注目 NY金は3,380~3,450ドル、JPX金に1万5900~1万6300円を想定米雇用統計により、雇用が5月にさかのぼり急減速していたことが明らかになった。この波乱を受け、市場全般は投資方針の見直しを迫られることになる。その中で金市場に関しては、景気減速とインフレが同時に進行するスタグフレーションが意識されることで、下値は堅調に推移しそうだ。### 目立つ経済指標はISM非製造業景況指数のみ今週(8月4日週)の目立つ米経済指標は、8月5日の7月のISM非製造業景況指数に限られる。ただし、これも雇用統計の下振れを受けて、結果に対する市場の反応は限定的になりそうだ。8月1日に発表された製造業の指数では雇用指数の落ち込みが目立っていた。### 注目はFRB人事とトランプ米大統領の発言そうした中で、注目されるのはトランプ米大統領によるパウエルFRB議長およびFRB人事を巡る発言だろう。パウエル議長に関しては、解任を迫る動きは市場の混乱を招くとのことで、封印されている旨の発言を大統領自らがしている。おそらくベッセント米財務長官の進言を受け入れた結果だと考えられる。雇用統計とは別に先週のもう1つのサプライズは、クーグラー理事の辞任だった。後任人事が注目されたが、トランプ米大統領は8月3日、今後数日以内に新たな理事を指名する方針を明らかにしている。「複数の候補を検討している」と述べたとされ、2026年5月に任期満了となるパウエル議長の後任に就任する可能性があることから、その人事は市場の注目材料となるだろう。パウエル議長に関しては、8月21~23日に開催予定のジャクソン・ホール会合に欠席との情報もあり、今後の動向が注目される。今回の雇用統計は、パウエル議長の去就にも影響を与えた可能性があり、今後の展開は予断を許さない。こうした中で今週のNY金は3,380~3,450ドルを、JPX金に関しては最高値接近を含む1万5900~1万6300円を想定している。
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先週(7月28日週)の動き:7月雇用統計のサプライズ 米ドル安転換からNY金は3,400ドル台回復、円高に上値を抑えられるも国内価格1万6000円台維持
先週(7月28日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週足で反発となった。8月1日に発表された7月の米雇用統計は、雇用水準が低調だったうえ、過去のデータも大幅に下方修正され、市場にサプライズを与えた。7月以降、予想を上回る企業決算や堅調な米国経済を背景に上昇していた米ドルは急反落し、米国株も大幅に下落した。その結果、米国債に資金の一部が流入して価格が上昇し、指標となる10年債利回りは5週間ぶりの低水準に急落。このような状況の中、NY金は急伸した。
前日7月31日にトランプ米大統領が69の貿易相手国・地域からの輸入品に10~41%の相互関税を課す大統領令に署名したことで、世界貿易を巡る懸念が改めて広がったことも、安全資産とされる金(ゴールド)に資金が流入する原因となった。
8月1日のNY金は前日比51.20ドル高の3,399.80ドルで終了。その後も買いが続き、時間外取引もほぼ高値圏で推移し、3,416.00ドルで週末の取引を終えた。 NY金の週足は前週末比64.20ドル(1.9%)高の反発となった。レンジは3,300~3,416.90ドルで、値幅は116.90ドルとやや大きくなった。前回の当欄では想定レンジの下値を3,300ドルとし、下回ったとしても3,280ドル程度と読んでいた。
関税協議の進展、利下げに慎重なFOMCで売り優勢
先週(7月28日週)は前週末に米国とEUの通商協議がEUに対して15%の関税を課すことなどで合意し、通商摩擦激化への懸念が後退したことで、NY金は売りが優勢となっていた。一方、スウェーデンのストックホルムで開催されていた米中閣僚級協議が関税導入の停止期限を90日間延長する方針と伝えられたことも売り手掛かりとなり、NY金は3,300ドル近辺での取引となっていた。
7月30日に声明文が発表されたFOMC(連邦公開市場委員会)は、予想取り政策金利の変更はなく、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の記者会見でも利下げに慎重なタカ派的な姿勢が示された。米労働市場が堅調さを維持する中で、関税のインフレへの影響を注視するスタンスが確認された。ただし、金利据え置きの採決に際し、2名の理事が反対票を投じたことが話題となった。しかし、いずれも事前に7月会合での利下げ支持を表明していたことから、市場への影響は限定的だった。
市場はFRBの慎重な姿勢をすでに織り込んでおり、8月1日の雇用統計発表前には、債券先物市場は9月FOMCでの0.25%の利下げ確率を38%と見込んでいた。
クーグラー理事辞任のサプライズ
なお、8月1日午後の遅い時間帯にNY金が上値を伸ばしたのは、FRBがクーグラーFRB理事の8月8日付の退任を発表したことによる。クーグラー理事は7月29、30日のFOMCを欠席していた。理事の任期は2026年1月末までだった。辞任によりトランプ米大統領は後任の理事を前倒しで指名できることになる。利下げに積極的なトランプ米大統領の意に沿う人選になるとの見方から、米ドル売りが加速。10年債利回りはさらに低下し、NY金を押し上げた。
7月米雇用統計、過去データ大幅修正のサプライズ
米雇用統計では非農業部門雇用者(NFP)数の伸びが、この3ヶ月に月平均3万5000人増と、前年同期の12万3000人増から大きく減少したことが示された。7月のNFPは前月比7万3000人増と市場予想の11万人増を下回った。
ポイントは5、6月の2ヶ月で計25万8000人が下方修正された点である。その結果、月平均3万5000人と大きく下方修正され、ここまでの市場の楽観的なシナリオは見直しを迫られることになった。失業率は4.1%から4.2%に上昇した。仕事探しを諦めたり離職した労働者(労働市場からの離脱)が約3万8000人にのぼり、労働参加率は6月の62.3%から62.2%へと3ヶ月連続で低下し、3年ぶりの低水準となった。それがなければ失業率は4.3%に達していたとみられる。
国内金価格、円高で上値を抑えられる
こうしたNY金の動きを映す形で国内金価格も週足では反発となった。ただし米雇用統計を受け米ドル/円相場が急反落(円急伸)したことが、上値を抑える要因となった。大阪取引所の金先物価格(JPX金)の8月1日の終値は1万6081円と前日までの1万5900円台から回復した。週足は、前週末比76円(0.47%)高の反発となった。レンジは1万5892~1万6138円で値幅は246円となった。
8月1日の米ドル/円相場は雇用統計発表前に一時150.92円と、3月28日以来の高値(円安)をつけていた。しかし、雇用統計の結果を受け2%余り下げ一時147.30円まで下げ、147.41円で終了。4月10日以来の大幅下落となった。
今週(8月4日週)の動き:米雇用統計で下値が固まったNY金 FRB人事を巡るトランプ米大統領の発言に注目 NY金は3,380~3,450ドル、JPX金に1万5900~1万6300円を想定
米雇用統計により、雇用が5月にさかのぼり急減速していたことが明らかになった。この波乱を受け、市場全般は投資方針の見直しを迫られることになる。その中で金市場に関しては、景気減速とインフレが同時に進行するスタグフレーションが意識されることで、下値は堅調に推移しそうだ。
目立つ経済指標はISM非製造業景況指数のみ
今週(8月4日週)の目立つ米経済指標は、8月5日の7月のISM非製造業景況指数に限られる。ただし、これも雇用統計の下振れを受けて、結果に対する市場の反応は限定的になりそうだ。8月1日に発表された製造業の指数では雇用指数の落ち込みが目立っていた。
注目はFRB人事とトランプ米大統領の発言
そうした中で、注目されるのはトランプ米大統領によるパウエルFRB議長およびFRB人事を巡る発言だろう。パウエル議長に関しては、解任を迫る動きは市場の混乱を招くとのことで、封印されている旨の発言を大統領自らがしている。おそらくベッセント米財務長官の進言を受け入れた結果だと考えられる。
雇用統計とは別に先週のもう1つのサプライズは、クーグラー理事の辞任だった。後任人事が注目されたが、トランプ米大統領は8月3日、今後数日以内に新たな理事を指名する方針を明らかにしている。「複数の候補を検討している」と述べたとされ、2026年5月に任期満了となるパウエル議長の後任に就任する可能性があることから、その人事は市場の注目材料となるだろう。
パウエル議長に関しては、8月21~23日に開催予定のジャクソン・ホール会合に欠席との情報もあり、今後の動向が注目される。今回の雇用統計は、パウエル議長の去就にも影響を与えた可能性があり、今後の展開は予断を許さない。
こうした中で今週のNY金は3,380~3,450ドルを、JPX金に関しては最高値接近を含む1万5900~1万6300円を想定している。